ギャラリー

悠久の自然の中で見たもの、感じたもの、
そして私たちに伝えたかったこと。
星野道夫からのメッセージを
遺された写真と文章で紹介します。

悠久の自然

人間と自然との関わりって何なのだろうと考える時、
10代の頃抱いた不思議な感覚を今でも思いだす。
それは現在の僕のものの感じ方、考え方のベースに
どこかで関わっているような気がしてならない。

あの頃、北海道の自然に憧れていた。
アラスカどころではなく、
当時の僕にとって北海道さえ遠い世界だった。

いつしかあることが気にかかり始めた。
それはヒグマのことだった。
自分が生きている同じ国で、
ヒグマが同時に生きていることが
不思議でならなかった。もうすこし詳しく言うと、
例えば満員電車に揺られながら学校に向かう途中、
東京の雑踏を歩いている時、
ふとそのことが頭に浮かんでくるのである。
今、この瞬間、ヒグマが原野を歩いているのかと…。

よく考えれば当たり前の話である。
北海道にはまだたくさんの自然が残っているのだから。
だが、その時はそんなふうには思えなかった。
自然とは、世界とは面白いものだと思った。
それを今言葉にすると、
すべてものに平等に
同じ時間が流れている不思議さだったのだろう。

日々の暮らしに追われている時、
もうひとつの別の時間が流れている。
それを悠久の自然と言っても良いだろう。
そのことを知ることができたなら、
いや想像でも心の片隅に意識することができたなら、
それは生きてゆくうえで
ひとつの力になるような気がするのだ。

「長い旅の途上」文藝春秋より

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